DEAR 開発教育協会

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震災からはじまる学び

56の教育実践から~アンケート結果報告

東日本大震災からはじまる学び

東日本大震災からはじまる学び

DEARでは、2003年より時事問題をテーマとした教材『グローバル・エクスプレス』を発行してきた。震災から1か月後の4月11日には「東日本大震災」、6月11日には「東日本大震災・世界からの援助」をウェブサイトからの無料ダウンロード形式で発行し、全国から反響があった。

5月下旬には、教材をダウンロードした教員を対象に「震災の授業」についてアンケートをおこなった(表1)。これには、3日間という短期間の間に56件もの熱心な回答が寄せられ、震災から2か月間の間に、各地で様々な教育実践が行われていることがわかった。本稿では、アンケート結果をご紹介するとともに、「震災からはじまる学び」の意義について考えたい。

表1 アンケート項目(自由記述)
(1) 震災を受けての生徒の様子
(2) 震災についてどのような授業をやったか/やっていないか
(3) 授業をやるにあたっての課題(教材、切り口、教科書との兼ね合いなど)
(4) 生徒に必要だと思う教育的な取り組み
(5) その他自由記述

※本稿は会報誌『DEAR News』152号(2011年8月)掲載記事を編集し掲載したものです。

地域を問わずおこなわれている震災の授業

アンケートには、小学校から大学までの教員から回答が寄せられた(表2)。また、地域についても全国から回答があり(表3)、最も回答が多かった関西地域からは、阪神・淡路大震災(1995年)と関連づけた報告が目立った。「普段は落ち着きのないクラスで『お腹の中に自分がいるときに、お母さんとお父さんが被災したおばあちゃんを助けに行ったんやって何度も聞かされた』と紹介してくれた生徒がおり、みんな真剣に考えました。わたし自身も家族3人が亡くなった同僚の家の片付けに行ったからこそ語れる話もありました」(大阪府/高校教員)、「神戸の子どもたちは小学校のころから少なからず震災学習を受けています。その影響からか、とても関心が高く、興味を持って取り組めました」(兵庫県/中学校)との回答があった。

また、東北の被災地域の教員からは、「生徒も教員も心の中に大きなショックを抱えており、授業の集中力などにも影響が少なくありません」(福島県/小学校)、「罹災した生徒と、そうではない生徒との温度差がどんどん広がっていっているような気がします。その中での授業をどのように展開したらいいのか思案中です」(宮城県/高校)といった、心のケアの重要性に関する回答が目立った。また、「被災地域だからこそ」と積極的に震災に向き合う教育実践も報告された。本誌「実践事例報告」で2件ご紹介しているので、お読みいただきたい。

表2:回答者の属性 表3:回答者の地域
小学校 7件 北海道・東北 7件
中学校 10件 関東甲信越・北陸 17件
中学高等学校 5件 東海 9件
高校 24件 関西 17件
大学 9件 中国・四国・九州 4件
専門学校 1件 海外 2件

その他の地域からは、「震災のことはすでに風化している」という意見も一部あったが、「こんな大きな出来事を、まるでなかったかのように通り過ぎるわけにはいかない」(愛知県/大学)、「身近な大人たちが震災に対してどのように関わっているのかを見せることがよいのではないか」(長野県/高校)、「有事の際にきっちりとしたメッセージを生徒に伝えることは教師として大切」(京都府/中高校)との回答が寄せられた。実践をしている教員の多くが、被災の有無にかかわらず、なんらかの当事者性や使命を感じて教育実践に取り組んでいるようだ。

一方で、「あまりに大きな災害であり、決して軽々しく扱ってはならず、どの切り口がふさわしいか悩む」(東京都/中学校)という意見も寄せられている。では、それぞれの教室では、どのような切り口やテーマで、授業がおこなわれているのだろうか。

援助・原発・メディアなどの多様な切り口

東日本大震災からはじまる学び

教科については、地理や世界史、現代社会、公民といった社会科系の教科をはじめ、国語・現代文、英語、物理、道徳、家庭科、音楽、人権学習、総合学習、ホームルームなど、教科を問わず実践事例が寄せられた。京都市内のある高校では、物理の時間に原子力を扱ってみたり、地理で地形と津波の関係を話したり、ボランティア論が展開されたりと、各教科の中で震災を取り上げたそうだ。この高校の教員は「この時とばかりに、多くの教科で関連事項を取り上げられたのは素晴らしかったと思う」とふり返っている。

切り口やテーマは、教科の枠にとらわれないものが多く、分類すると以下のようになった。
(1)教材「グローバル・エクスプレス」を活用したもの
(2)ボランティア・支援・協力をテーマとしたもの
(3)原子力発電・エネルギー政策をテーマとしたもの
(4)地震・災害・防災をテーマとしたもの
(5)メディアリテラシーや映像・記事・写真を活用したもの
それぞれの授業の内容を以下に紹介していく。

グローバル・エクスプレス

(1)教材「グローバル・エクスプレス」を活用したもの

教材「東日本大震災」(サンプル版第13号)を活用した教育実践は、特に震災直後に多くおこなわれたようだ。
アクティビティ「わたしの気持ち」「311をふり返る」については、「思っていた以上に、生徒たちは震災のことについて考えていて、たくさん話してくれました」(大阪府/高校)、「自分たちと震災について、生徒がどれだけ身近な出来事として捉えているのか知ることができた。お互いがどのように考えているのかも発表し合い、それぞれの思いを共有することができた」(奈良県/中学校)との意見が寄せられた。また、震災後の世の中で変わると思うこと/変えたいと思うことを問うアクティビティ「これからの世の中」では、家族や地域の人間関係の変化や、防災教育の重要性、エネルギー政策の転換、節電への提言、マスメディアの震災報道への不信感、国際協力・連帯への感謝など、子どもたちから様々な視点・意見を引き出せたとの報告があった。これは、震災を通して、子どもたちが社会のあり様や課題について関心を持ち、考え始めていることを表れではないだろうか。

(2)ボランティア・支援・協力をテーマとしたもの

アンケートからは、震災後に生徒会やクラスで募金活動に取り組んだり、ボランティア活動への関心が高まったりした様子がうかがえた。活動を始めようとすると、被災地からのニーズと想定した活動とのギャップに悩んだり、「被災地に行くことだけがボランティアなのか?」という疑問が出てきたりする。それらの疑問や問いを入り口に、ボランティアや援助のあり方について考える教育実践がみられた。また、外国から多数寄せられた支援から、国際協力や連帯について考える実践も寄せられた。以下に、兵庫県の中高校の事例を紹介する。

「生徒会を中心として、すぐに義援金を募りたいという希望が出されました。しかし生徒たちはなぜそれをするのか、集めたお金をどこに、どんな風に送ればいいのかなどについて、何も考えていませんでした。そこで、義援金を募るための手順について、生徒と考えました。集めたお金をどのように使いたいか(長期的支援/緊急支援)を考えたところ、生徒たちの気持ちは、“できるだけすぐに役立ててもらえる方がいい”ということでした。そこで早い段階から現地で支援活動を行っている東北のNGOへの募金活動を始めました。“今すぐ、何か役に立てることをしたい”という、はやる気持ちだけに突き動かされていた生徒たちでしたが、徐々に募金活動のあり方について冷静に、その流れと意味を考えてくれるようになっていったようでした」。

(3)原子力発電・エネルギー政策をテーマとしたもの

福島第一原子力発電所の事故と広範囲にわたる放射能汚染を受け、原子力発電(以下、原発)やエネルギー政策を問い直す教育実践も目立った。内容は様々で、「原発について賛否それぞれの立場からどのような意見が出ているのか調べた。2クラスで実施し、1クラスは賛否が半々で分かれ、1クラスは反対多数という結果になりました」(静岡県/中高校)、「NHKの番組『マイケル・サンデル究極の選択~大震災特別講義』を参考に、“原子力のリスクを最小限にして依存を続ける/生活水準を下げても原子力への依存を減らす”から考えた」(東京都/中学校)、「原発とメディアリテラシーについて扱っている。“安全派”と“危険派”の情報が対立し、簡単に何が本当かわからない混乱状態になっている。だからこそ、メディアリテラシーが重要なテーマになりうる」(神奈川県/高校)、といった回答が寄せられた。

また、「原発や放射能による人体や環境への影響を授業で扱いたいが、適当な教材や情報を得るのが困難」という意見が複数あった。テクノロジーに伴うリスクについての教育の重要性を訴える意見もあり、今後、この分野の教育に関する情報提供や教材開発が望まれている。

(4)地震・災害・防災をテーマとしたもの

地理の観点からの地震のメカニズムを学ぶもの、来るべき災害への備え(防災教育や避難訓練)などの取り組みのほか、被災地の様子や被災者の暮らしを想像したり、共感したりするための取り組みが寄せられた。同世代が被災している様子をみて、心を揺さぶられた子どもたちも多かったようだ。

(5)メディアリテラシーや映像・記事・写真を活用したもの

賛否が分かれる「原発」や「ボランティア」等のテーマを取り上げたマスメディアを活用してのメディアリテラシーの実践が寄せられた。また、動画サイトやウェブ・ニュース、海外メディア、教員自身が撮影した画像、被災した知人・友人の言葉等を活用した実践も多く、素材となりうる「メディア」の多様性が感じられた。さらに、今回の震災をめぐるマスメディアの報道の質や量を批判的にみる声も目立ち、「震災報道のあり方を問う授業をやりたい」との回答が複数あった。

これからの日本の「開発」問題として

「するべきカリキュラムが盛り込まれすぎていて、時事問題について教師と子どもが共に考える活動が十分にできていないことがもどかしい」(奈良県/中学校)、「いま心配なのは、教師集団の中で社会問題について議論することが全くないこと」(大阪府/高校)という回答も寄せられ、教育現場の環境についての悩みも散見された。そして、教育実践の多くは「学校ぐるみ」の取り組みというよりも、個々の教員の資質に拠ったものがほとんどであった。

ここであがった様々な取り組みは、エネルギー、防災、まちづくり、市民参加など、これからの社会のあり方=日本のこれからの「開発」を問う重要な視点が多く含まれている。震災を機にはじまった様々な「学びのプロセス」に、開発教育ができることは何なのか、継続して、長期的な視野でできることを模索していきたい。

文責:八木亜紀子(開発教育協会事務局)

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※本稿は会報誌『DEAR News』152号(2011年8月)掲載記事を編集し掲載したものです。 著作権は(特活)開発教育協会が保有しています。DEAR会員には年6回、会報誌『DEAR News』をお届けしています。入会方法、会員についてはこちらのページに記載しています。