DEAR 開発教育協会

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英国における開発教育-7 「グローバル教育の今後~市民教育への展開は?」

グローバル教育の今後~市民教育への展開は?

ヨークへのスタディツアー

岩崎:
将来的にグローバル教育を進めていくために何が必要だと思いますか?

マーゴ:
ワークショップを通じて、教師一人ひとりを啓発していくことです。一人ひとりの意識を変えていくこと、置かれている状況を把握すること、そして私自身の学びが重要だと思っています。また、正義の基本指針となる人権が必要だと思っています。人々の正義感が、大小さまざまなレベルで欠如しています。人々を創造的かつ意欲的にしていくための教育、自分自身の考えを開発し、よりよい世界を作るための学びの基盤が必要だと考えています。それが「正義」だと思います。

岩崎:
その「正義」を推進するのは難しいと考えていますか?

マーゴ:
「正義」に対する人々の考えもさまざまです。正義が回復している場所もあれば、正義が無視されている場所もあります。スーダンのダルフールでも、英国でもまだまだ人種差別が起こっています。

岩崎:
英国の市民教育に対して、近年、日本の関係者は関心を寄せるようになっています。学校に導入するために、どのようなプロセスや手続きが必要でしょうか?

マーゴ:
学校の教師というのは、異なる視点や理解度を持っています。一人の教師の実践を、他の教師がそのまま使えるとは限らず、教師のものの見方や考え方が一番の障害になっています。 議論や交渉の事例を紹介しながら教師を励ましていますが、たとえば、ナショナル・カリキュラムの導入の際、同じ学校同じ学年であっても 「政治的に危険だ!いや危険ではない!」と、教師の間で賛否が分かれました。

市民教育の現状と今後~市民教育の基盤は「正義」

ヨークへのスタディツアー

岩崎:
市民教育も同じような状況だということでしょうか?

マーゴ:
そうです。ただ、市民教育や政治教育を実践している教師の数は、少しずつ増えていくと思います。なぜなら教員研修を受けた人が、他の教師に研修していくという仕組みがあるからです。
また、同僚の教師が一緒になって、新しい試みや参加型学習を授業に導入していくことが非常に有効だと考えています。教材はたくさんあります。教育の文化の中で「正義」がその基盤となり、「正義」がカリキュラムに導入されて、変化がおこれば、その変化を実際に見届けながら、適切に次の方法を取り入れていくことが必要ではないでしょうか。

岩崎:
市民教育も「正義」が基盤になりますか?

マーゴ:
市民教育では「法の支配」ということがひとつのポイントです。「法が正義だ」とは限りませんが、「法が不正義」の場合、どんな問題が起こるでしょうか。こんな実例があります。
英国政府は最近「国会の500ヤード以内では平和的であっても抗議運動をしてはいけない」という法律を作りました。この法律によって、国会前で平和行動をしていた人々が手にしていたケーキに「平和と正義」と書いてあっただけで、それは挑発的なデモンストレーションだということになり、この人たちは逮捕されてしまいました。

これには背景があります。イラク戦争が始まる前から、国会正面の広場でテントを張って抗議活動をしているブライアン・ホールという活動家がいました。政府は彼が気に入らなくて、この法律を作ったのです。ところが、裁判所は「彼はこの法律が成立する前から広場にいたので、これを適用することはできない」という常識的な「法の支配」を示しました。 市民教育が「正義」に基づくものかどうかは難しい問いですが、少なくとも市民教育は「法の支配」に基づくものであるとは言えます。しかし、「法は正義だ」とは言い切れない以上、市民教育が「不正義な法」に支配されないように、私たちは「正義とは何か」を問い続けなければならないと思います。市民教育の基盤が「正義」であるとはそういう意味です。

岩崎:
市民教育がナショナル・カリキュラムに導入されていなかったら、状況は違っていましたか?

マーゴ:
ナショナル・カリキュラムの導入の前は、学校でもプロジェクトを持っていました。しかし、それらは現在の市民教育と同様の内容であったとは必ずしも言い切れず、教師個人や学校単独での実践でしかなかったのです。
確かに、ナショナル・カリキュラムに市民教育が導入されたことで、ある種の標準はできました。しかし、その内容は難しく、また活動的な学習を重視しているので、教師にとっては準備が大変です。社会の時事問題に重点が置かれる一方、個人の内面に係わる課題などを扱ってきたPSHE(*29)の時間は毎日20分しか当てられておらず、単に教師と生徒との連絡の時間になっている場合もあるようです。現行の市民教育は、教師個人の力量や裁量に基づいて行われ、学校によって異なる実施状況が生まれています。

また、「進学」の実績によって学校がランク付け(*30)されるなど息苦しくなる中で、市民教育やPSHEがカリキュラムの中に正式に位置づけられたことは、「ヒューマニティ・ベース・アプローチ」と呼ばれる人間中心主義的なアプローチを再認識する機会になっているとは思います。1995年と2000年のカリキュラムの再改訂では、学校現場でもっと柔軟な対応が可能となる方向性が示されています。ただ、今の段階では、市民教育を評価するにはまだ早いと感じています。

日本の開発教育の今後に対して一言

岩崎:
最後に日本の開発教育の今後に向けてメッセージをいただけますか?

マーゴ:
まずはDEARが25周年を迎えたことを共に喜びたいと思います。同時にこれまでの活動を支えて来られた方々に敬意を表します。今後に向けては、実践を積み重ねること(Keep practicing)、そして良い仕事をし続けることです。国境を越えた連帯はとても大事。同じ価値観を持ち、世界のそれぞれの場所で、孤立せずに世界的なネットワークを続けていくこと。連帯し続け、連絡をとりつづけ、インスピレーションを与え続け合うことが大切です。そうした積み重ねが私たちを理想に近づけてくれると信じています。

岩崎:
今日はどうもありがとうございました。

マーゴ:
こちらこそ、ありがとうございました。


  1. 「英国における開発教育」トップページ
  2. CGEの成り立ち
  3. CGEの転換点とは?
  4. 開発教育、ワールド・スタディーズ、グローバル教育の背景
  5. 開発教育、ワールド・スタディーズ、グローバル教育の違いとは?
  6. 日本との関わり
  7. 市民教育の現状と今後

*29:Personal, Social, Health Education。内容的には日本の「道徳」に相当する部分もあるが、徳目を教え込むことが目的ではなく、市民社会における関係作りを重視している。
*30:英国では90年代以降、リーグ・テーブル(League Table)と呼ばれる全国一斉テストなどの学校別成績順位表が、マスコミを通じて公表されるようになっている。


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