DEAR 開発教育協会

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こども <解説編>
子どもの商業的性的搾取の問題と開発教育
甲斐田万智子 国際子ども権利センター/DEAR会員

最悪の児童労働の形態といわれる子ども買春・子どもポルノ、それに性的目的の子どもの人身売買の3つをさし、「子どもの商業的性的搾取:CSEC(シーセック)」と呼ばれている。2001年には、横浜で「第2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議(通称:横浜会議)」が開催され、136ヶ国の政府代表、93名の子ども若者代表をはじめ、3,000人以上の関係者が集い、CSECの様々な側面について知識と経験を分かち合った。国際子ども権利センターは、ストリートチルドレンや児童労働などの問題に取り組むNGOで、横浜会議にも参加。長年にわたり開発教育を実践している国際子ども権利センター代表の甲斐田万智子さんから、CSECの問題に開発教育がいかに取り組むべきか、お話を伺った。

「買春・ポルノ大国」日本

開発教育では、日本の加害責任を問うことが重要だと思いますが、この問題において日本はアジア最大の買春送り出し国であり、世界最大の子どもポルノ生産・供給国といわれています。インターネット上の商業的な子どもポルノの80%が日本から発信されているデータもあります。書店では、タイやフィリピンの買春ガイドが販売され、インターネットではアジアの少女を買った体験談が語られています。以前のように団体としてのセックスツアーが影をひそめても、このような情報を得てアジアに買春に出かける個人は絶えません。

横浜会議では、国際子ども権利センターは「CSEC加害国日本を検証する」目的で、歴史的に性産業がおこなわれてきた横浜の町を海外ゲストと歩く視察ツアーを実施しました。そこには風俗店が建ち並ぶだけでなく、古本屋やビデオ店で法律では禁止されている子どもポルノが売られています。海外ゲストが驚いたのは、コンビニで、子どもがすぐに手にとることのできるところでポルノ雑誌が販売されていることでした。多くの海外ゲストにとってショッキングだったのは、こうした性風俗やポルノが日常生活のすぐそばにあり、異常なことが異常と感じられていないということでした。

日本人セックスツーリストやポルノ業者が摘発されるとき、このような日本社会のゆがんだ性のあり方が目に見えるかたちで表われると思います。タイで子どもを買い、刑務所に入っている日本人男性は「なぜ俺がつかまらなくちゃならないんだ」と発言しましたが、「貧しい子どもを助けてやってるのに」という意識を多くの加害者がもっています。そこには、買春を容認する日本文化と貧しい人々への差別、女性と子どもへの差別意識によって加害者が罪の意識を感じられなくなっているといえるのではないでしょうか。

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増え続ける性産業と子どもの性的搾取

近年、タイやフィリピンで法律が厳しくなり子ども買春の取り締まりが強化されるにつれ、法整備が遅れ、執行力の弱いカンボジアへ日本人加害者が子どもを買いにいくようになりました。カンボジアでは、近年観光客が増加し、2001年の観光分野での国家収入は2億9,600万ドルであり、10万人の雇用を生み出しています[※2]。国内では、8万人から10万人が性産業に従事しており、そのうちの3割が18歳未満です。原因としては、人口の37%が貧困ライン以下という貧困の問題、内戦による家庭崩壊や地域共同体の精神的絆の崩壊、人的資源の不足、教育の不備(建物などハード面と教員などのソフト面も両方)が挙げられます。そして、前述のように警察や検察官が性産業から買収されるなど汚職による執行力の弱さや、捜査力の低さも大きな原因の一つです。

そんななか、貧しい農村の子どもたちは、親や親戚、近所の人たち、あるいは恋人から「いい仕事がある」「結婚しよう」とだまされて首都プノンペンなどに連れてこられます。以前は暴力によってむりやり売春をさせられていた子どもたちは、今はすぐに麻薬を売って中毒にさせられることも多く、買春宿から救出されてもすぐに戻ってきてしまう子どももいます。

また近年は、エイズへの不安から、性産業において処女に対する需要が高まり、買春宿に売られる子どもはどんどん低年齢化しています。その結果、多くの子どもたちがHIV/AIDSに感染し、亡くなり(2001年までに2592人の子どもが死亡)、感染率はアジア地域の中でも最も高くなっています。これまでも国の開発のために観光産業に頼らざるを得ない国では、子どもの性や命が犠牲になってきましたが、カンボジアはその同じ道を歩んでいくのでしょうか。

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NGOが地域でどのようにくいとめようとしているか

昨年夏、NGOが子どもの商業的性的搾取に対してどのように取り組んでいるかを学ぶためにカンボジアを訪れました。多くのNGOが子どもの商業的性的搾取において「被害者の救出」だけでなく「予防」にも力を入れていました。そのうちの一つ、「子どものためのヘルスケアセンター(HCC)」では、命がけで少女たちを救出したあとに、職業訓練をおこなっています。その訓練では、少女たちが再び性産業に戻らなくてもすむようにその出身地域のマーケット調査をおこなった上で持続できるような、稲作や養豚、手工芸などから最も適切な職業を選んでいます。また、村での予防教育にも力をいれており、子どもの権利について子どもたちだけでなく、親にも意識啓発する教育活動をおこなっています。

CWDA(カンボジア女性開発協会)は、人身売買を防止するための教育に力を入れていますが、特に効果的な教材をつくること、村人が自ら情報を発信することに熱心です。たとえば、紙芝居を使い、人身売買をする人間がよく使う嘘や、買春宿に連れていかれるとどのような結果になるのか、はっきり「NO!」ということの大切さを伝えています。また、貧しい農村では都会の暮らしにあこがれる傾向がありますが、ふだん気がつかない村の暮らしのよさも伝えています。

代表のキエン・セレイ・パルさんは「村人が自分たちで人身売買をふせげるようになることをめざしていますが、そのために彼らが自分の問題を見つけ、優先順位をつけていくことが大切です。そして、教材を村人自身で作成、情報センターも自分たちで運営できるように訓練しています」と話していました。

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子どもと若者の参加とエンパワメント

カンボジアには、子どもや若者をパートナーとして子どもの商業的性的搾取になくそうとしているNGOもありました。その一つが「子ども権利財団」です。子ども権利財団は、子どもたちが性的搾取にNOといえるように子どもの権利を知らせたり、リーフレットを配布したりしています。また、子ども若者が子どもの商業的性的搾取をなくすためにどうすればいいかを話し合うワークショップを開き、政府やNGOに対する提言をつくり配布しました。

また、カンボジアには「子ども委員会」といって子どもたちがカンボジア全体の子どもが直面する問題を子どもたちとの対話から調査し、子どもの商業的性的搾取の問題にもとりくんでいました。そして、「子ども委員会」で活動していた若者が今度は子どもの参加を促進するために「CAMP」という若者NGOをつくっていました。

そうした活動のなかで、子ども買春、人身売買の犠牲になった子どもたちが、NGOでケアを受けて、過酷な体験をのりこえ、運動に参加していました(性暴力の分野では、そうした人たちを「サバイバー」と呼んでいます)。子どもに対する虐待のなかで、子どもに最も深い傷を負わせるのが性虐待ですが、そうした傷に苦しみながらも、サバイバーの子ども若者が、横浜会議でも、子どもの商業的性的搾取をなくすための提言を力強くおこなっていました。

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開発教育と人権

2000年の国連開発計画(UNDP)の人間開発報告は「開発と人権」をテーマにし、開発において人権に取り組むことが不可欠になったことを示しています。そして、開発において、人権を基盤にして取り組むアプローチが求められるようになってきましたが、その一つとして、当事者を単なる弱者や被害者とみなしたりするのではなく、当事者をエンパワーし、当事者が発言、参加することを保障していくことが重要だと思います。そうしたアプローチは、インドやフィリピンなどのNGOから学ぶことがとても多いと思います。

社会を変えるためには、子どもや若者がもっと社会に参加することこそが大事です。どんなに開発の実態を知っても子どもが自分に力があるという実感や体験を得られないかぎり、行動にはうつせないと思うからです。児童労働の問題においても、商業的性的搾取の問題においても、当事者である働く子どもや性産業にまきこまれた子どもたちが、この問題の解決のために立ち上がっています。それはまわりのおとなが、「あなたには社会を変える力がある」「あなたは問題を解決していくパートナー」というメッセージを送り続けているからです。

それに対して、日本の子どもたちはどれだけそのようなメッセージを受け取れているでしょうか。そうしたポジティブなメッセージの代わりに子どもたちが日々囲まれている情報は性の商品化のメッセージではないでしょうか。つまり、「相手の心と身体を大切にしよう」というメッセージではなく、性の尊厳=生きる尊厳はふみにじって相手を暴力的に扱ってもいいというメッセージではないでしょうか。開発教育に携わる人は一度ぜひコンビニもしくは本屋で見てほしいのですが、レイプされた少女、少年が最終的には喜ぶという構図の暴力を正当化するもの非常に多くみられます。そして、それはゲームソフトやビデオの世界でもここ数年で非常に数が増えています。こうした見方で女性や子どもをひとたび見てしまった中学生、高校生の心から、そのゆがんだイメージやメッセージを消すことはとても難しいと思います。

子どもたちが国境を越えて売り買いされるだけでなく、グローバル化により、こうしたビデオはカンボジアの農村にまで入り込んで、影響を与えています。子どもや女性に対する暴力を加速させるグローバル化を黙認するのか、子どもが大切にされ、子どもが参加できる「子どもにふさわしい世界」[※3]をつくるためのグローバルな運動に参加するのかが問われているのではないでしょうか。これからも「子どもの人権」という切り口で開発教育をおこなっていきたいと思います。

※ 1 詳しくは報告書「子ども買春・子どもポルノにNO!」参照
※ 2 ワールドビジョンの資料より
※ 3 子どものふさわしい世界」とは、2002年国連子ども特別総会において子どもがアピールしたメッセージで、採択された最終文書の名前でもある。

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DEARニュース101号(2003年2月)特集より一部再編集のうえ掲載
※ 著作権は(特活)開発教育協会が保有しています。無断で転載や複製を行うことを禁じます。

■甲斐田万智子
1960年うまれ。国際子ども権利センター代表。立教大学助教授。設立当事からのDEAR会員。大学卒業後、日本ユニセフ協会で学校募金・開発教育を担当。「たみちゃんと南の人びと」編集などにかかわった後、イギリスに開発教育を学びに留学。その後、ブータン、インド在住。インドで働く子どもの社会参加とエンパワメントを学ぶ。訳書「未来を奪われた子どもたち」「第三世界の農村開発」(ともに明石書店)、共著「NGO大国インド」(明石書店)「グローバル化と人間の安全保障」(日本経済評論社)など。
■NPO法人 国際子ども権利センター/C-rights(シーライツ)
「子どもの権利条約」の理念に基づき、世界中の子どもたちの権利が保障される地球市民社会の実現と、子どもが一人の人間として、また権利を実現する「主体」として尊重されること(子ども参加)をめざす。インドの児童労働に取り組むNGOを支援。関西と関東で子どもの権利条約や子どもの権利侵害にかかわる学習会・ワークショップを実施。絵本やブックレット、パネルなど子ども向けの教材を制作。
〒110-8605 東京都台東区東上野1-20-6 丸幸ビル3F
電話:03-5817-3980 URL:http://www.c-rights.org/

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