DEAR 開発教育協会

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市民教育 <解説編>
イングランドの市民教育~市民教育と開発教育の今後
対談:オードリー・オスラー×岩崎裕保・田中治彦

解説編-イングランドの市民教育  セミナー「英国の市民教育」

『世界の開発教育』の編集者であり、英国の優れた開発教育の実践者であるオードリー・オスラー氏の来日に伴い、DEARの理事との対談を行った。イングランドで2002年度から学校教育に導入された、「Citizenship Education」(以下「市民教育」[※1])のことや、持続可能な開発のための教育について、また今後の開発教育について、語り合った。

イングランドの「市民教育」の歴史・現状・展望

オードリー・オスラー氏

岩崎裕保(以下「岩崎」): イングランド[※2]では2002年度から「市民教育」という教科が設けられていますが、それはどのように誕生し、なぜ普及していったのかということに関して、まずお話いただけますか?

オードリー・オスラー(以下「オードリー」): イングランドでは10年前に「市民教育」が誕生しました。それから10年の間に「市民教育」に対する関心は二つの要因で高まってきました。第一に、政治家が若者の政治的無関心を問題視したこと、第二に、多くの人々が若者に対して責任ある態度を求めて社会教育を重視したことです。こうした状況の中で「市民教育」への期待が高まっていったのです。

岩崎: 10年前と今を比べると、社会的な関与に変化はありますか?

オードリー: 「市民教育センター」が1991年に国会で設立されました。前政権の時は、「市民教育」は周辺的なものと捉えられていました。しかし現労働党政権に移ってからは、大変オープンになりましたね。政府との相談会や協議も素早く行われるようになりました。最近では多くのNGOが関与するようになってきています。 私は現在のイングランドの「市民教育」に関して、多様性に関する認識が高まってきていることと、目的を政府と共有できていることについて希望を見出しています。

岩崎: 「市民教育」の目的ははじめから現場の教員や教育者とも共有できたのでしょうか?

オードリー: 「市民教育」の概念が紹介された時は、指導方法がわからない教員も多くいました。しかし、若者たちの政治参加や政治理解、社会参加の必要性を認識している教員や開発教育・人権教育の担い手、また地球規模の課題にも取り組めるようカリキュラムを編成しようと試みている指導者には普及していきました。

岩崎:カリキュラム作成はどのように行われたのでしょうか?

オードリー: 開発教育や人権教育の担い手が強い関心を示し、政府に積極的な提言活動を行いました。特に我々人権教育の担い手にとっては「市民教育」の基礎には「人権」の概念があるべきだという見解がありました。「市民教育」を「人権」の概念で捉えることにより、「多様性社会における『市民教育』の強い枠組み」を作ることができると考えたのです。

岩崎:現状のカリキュラムの中で重要なポイントは何でしょうか?

オードリー: 3点あると思います。①政治を読み解く力②社会における責任③地域への参加です。カリキュラムは教員の多様な解釈によってさまざまな内容で指導可能なものであるべきですね。また、手法に関しては、生徒のアクティビティーや学校内・外における参加に焦点が当たっています。学校は地域のNGOやコミュニティと協力して、こどもが色々なレベルで参加可能なカリキュラムを実践するべきです。まだ多くの学校がこの考え方を持っているわけではありません。今後は学校ごとに自分たちのペースや時間割りで実践していく必要があります。

岩崎: 2000年にはカリキュラム再編成が行われたようですね?

オードリー: 新しいカリキュラム作成においては、NGOや教員の視点が重視されました。親たちからも質問や意見が寄せられ、ラジオなどのメディア上でおもしろいアイディアが提案されましたね。政治家・NGO・教育者・開発教育の担い手など関係者グループはとても真剣に取り組みました。

岩崎: 「ナショナル・カリキュラム」[※3]は近い将来見直されることもあるのでしょうか?

オードリー: 今後の発展に関しては私たちも今まさに調査段階です。まず、政府の継続的な関与・支援が必要になってきます。中央政府が関心を持ち、担い手となる教員の育成を続ける必要があるでしょう。イングランドにはこの新しいタイプの教員を育成するセンターが4つあります。私の所属するレスター大学もそのひとつです。大変面白いのは、以前は教員になれなかった人が教員になれるようになったということです。当センターでは熟練した人を教員として養成することを奨励しています。そのため、実習生の中には、郵便局員、法律家など様々な職歴を持つ人がいます。将来的なカリキュラム見直しに当たってはこの新しいタイプの教員の意見も取り入れていく必要があるでしょう。 また、地域社会は、教育の政治的側面を見落とさないということに注意する必要があります。先ほども述べたとおり、子どもたちが参加して自分たちの地域に関わり、社会を変えていくことができると感じ、実行させることが「市民教育」にとっては重要です。

岩崎: 学校教育の現場における「市民教育」の実践事例はありますか?

オードリー: 教員が工夫している学校では様々な試みがされています。生徒を意思決定の過程に参加させようという例が多く見られますね。中でも小学校は生徒と教員の距離が近く、より親密的であるため、おもしろい事例があります。また、スクール・カウンシル(選挙で選ばれた生徒・学生が教員と共に学校運営に携わっていく組織)が生徒にプロジェクトを投げかけている学校もあります。これは生徒にとって大変勉強になる実践事例です。

岩崎: スクール・カウンシルの活動は、今後ますます活発になるのでしょうか?

オードリー: オランダやデンマーク、アイルランドなど他のヨーロッパ諸国では、子どもの参加が法的に保障されており、スクール・カウンシルの活動も活発です。しかし、イングランドではまだスクール・カウンシルが法的に整備されていないため、設立は各校の教員に依存しているのが現状ですが数は着実に増えてきています。

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英国における「持続可能な開発のための教育(ESD)」[※4]

田中治彦(以下「田中」): 英国におけるESDの現状はどうですか?

オードリー: ESDの概念自体はそんなに広く普及しているわけではありませんね。どちらかというと社会経済と環境の問題という意識が先行しているようです。カリキュラム上では、政府の作業部会が積極的に調査してカリキュラム開発を行っています。ESDが直面している課題は、その概念をいかに普及させるかということです。例えば、日常的な言葉遣いに言い換えるなどの工夫が必要でしょう。 また、「市民教育」はESDの普及に貢献できると思います。今後のESDでは、これまで見落とされがちだった政治的な持続性の概念も取り入れて、地域独自の持続可能な社会を構築する必要があります。

岩崎: グローバリゼーションとESDの関係について英国政府はどのような態度を取っていますか?

オードリー: 現在政府により委員会が設置され、各省庁との協力により調査が行われています。その中でとても興味深いのは、NGOなどとの協力によりプログラム開発が進められていることです。例えばレスター大学では、WEB上で教材を紹介すシステムが考案され、実施しています。ここでも政府・NGO・出版社と大学のパートナーシップが図られて地球規模の課題に取り組むカリキュラムを作成しています。

岩崎: 共同で進められているわけですね?

オードリー: そうですね。みんなが貢献しています。

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訪日から考える開発教育の今後

岩崎: 福岡のイベントや開発教育全国研究集会に参加されて、日本の取り組みに対する提言などはありますか?

オードリー: 日本の開発教育に対するエネルギーや意気込みには大変刺激を受けました。今回の訪日から、日本の開発教育や英国におけるグローバル教育が直面している次なる課題は、「国際的な開発問題だけでなく、自分たちの地域開発にも目を向けること」ではないかと考えています。日本の社会も多様性を増してきており、大きな挑戦となるでしょう。

岩崎: どのようにして国際的な開発問題と地域の多様性を結び付けられるでしょうか?

オードリー: 従来は「国際的」として扱っていた課題を「国家」のレベルで捉えなおす必要がありますね。たとえば難民の問題は基本的には国家レベルの課題でしょう。政治家の役割がそこにあります。また、DEARのようなNGOが果たす役割も大きいでしょう。国際的あるいは地球的課題が若者が生きる地域社会に関係していることを認識する必要があります。

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シチズンシップの概念

オードリー: これからの市民教育を考える上でCosmopolitan Citizenship(「コスモポリタン市民」)という概念が重要になってくるでしょう。多くの場合、市民性はナショナルなものとして主張されがちです。一方でグローバルに捉えられた場合、それはローカルではないと考えられてしまいます。しかし、今後はグローバルな課題をローカルに考える必要があります。この両極をつなぐのが「コスモポリタン市民」ではないかと私は考えています。

田中: 日本ではコスモポリタンの概念は受け入れにくいのではないでしょうか?

岩崎: そうかもしれません。コスモポリタンという概念は、古代ギリシャのポリスの概念に由来しています。ヨーロッパの人々の間ではそのポリスを越えるというイメージがわき易いのでしょうが、日本社会ではそのような概念は理解しにくいかもしれません。

オードリー: 実は“Citizen”という言葉も古代ギリシャに由来していますよね。

岩崎: そうですね。

オードリー: 冷戦や2001年のテロを超えて、これからのグローバルな課題に取り組む上では、逆に地域レベルで考えて取り組む必要があると私は考えています。そして活動するときはグローバルに。つまり“Think Locally, Act Globally”ですね。グローバリゼーションの動きがとめられない現在、その中で自分たちのコミュニティを作り上げていく必要があります。ここで「コスモポリタン市民」の概念が有効になってくるのではないでしょうか。

岩崎: 今日は貴重なお話をたくさんしてくださいまして有難うございました。

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※1 Citizenship Education(「市民教育」):イングランドで2002年度から学校教育に導入された科目で、主なテーマは「社会的、道徳的責任」「地域との関わり」「政治的な事柄についての基本的に理解や能力」の3つ。
※2 英国の「市民教育」と一般に認識されているが、実際にはスコットランド・ウェールズ・北アイルランドは対象となっていないので、正確を期してここではイングランドとした。
※3 ナショナル・カリキュラム:1987年に制定され、その後幾度か改訂されている。核になる教化、教授内容を示す日本の学習指導要領のようなもの。
※4 持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development=ESD):2002年9月に南アフリカ共和国で開催された「持続可能な開発に関する首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」で、2005年からの10年間を「国連・持続可能な開発のための教育の10年」とすることを日本が提唱。2002年12月に正式に決定した。

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※対談は、2003年8月3日(日)に立教大学にて行われました。開発教育全国研究集会でのオスラー氏の講演の報告は、機関誌『開発教育』49号に掲載しています。
※ 著作権は(特活)開発教育協会が保有しています。無断で転載や複製を行うことを禁じます。

■オードリー・オスラー Audrey Osler
小・中学校の教員を経て、1999年までバーミンガム大学勤務。現在は英国レスター大学「市民教育センター」(Centre for Citizenship Studies in Education http://www.le.ac.uk/education/centres/citizenship/)所長。『世界の開発教育』(明石書店)編著、「持続可能な開発のための教育」英国政府諮問委員。

■編著書
『世界の開発教育 教師のためのグローバル・カリキュラム』オードリー・オスラー編
日本語訳が明石書店より2002年8月発行。アカデミックな立場からの研究と、教育現場で専門的に開発教育に取り組んでいる教師たちの実践とを結集させた、開発教育専門書。
『CITIZENSHIP AND THE CHALLENGE OF GLOBAL EDUCATION』
Audrey Osler and Kerry Vincent著、Trentham Books(www.trentham-books.co.uk)
■岩崎裕保(いわさき・ひろやす)
帝塚山学院大学助教授。開発教育協会副代表理事、開発教育協会大阪事務所所長、開発教育研究会運営委員長などを務める。翻訳に『地球市民教育のすすめかた』(明石書店)、『非核と先住民の独立を目指して』(現代人文社)など。

■田中治彦(たなか・はるひこ)
立教大学文学部教育学科教授。開発教育協議会設立時のメンバーのひとり。南北ネットワーク岡山代表などを経て、2002年より開発教育協会代表理事。主著に『南北問題と開発教育』(亜紀書房)。

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