DEAR 開発教育協会

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グローバリゼーション <解説編>
貿易が暮らしを支配する?!
佐久間智子 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)

解説編-貿易が暮らしを支配する?!  WTOを知る「貿易協定ゲーム」

昨年9月、メキシコのリゾート地カンクンで第5回WTO(世界貿易機関)閣僚会議が開催されました。日本でも数日間にわたり[佐久間1]報道されましたが、その後はあまり目に[佐久間2]しなくなりました。WTOは貿易の自由化を推進しており、これはとりわけ途上国の人々に大きな影響を及ぼすだろうといわれています。この議論を中心になって進めているのは、アメリカ、EU、日本など先進国の政府と世界中で活動する多国籍企業ですから、私たちがしっかり注視する必要があります。しかし、WTOが推し進める自由化の影響は、実は私たち日本人も含めた世界中のあらゆる生活者に及ぶのです。私たちの生活からはあまりにも遠いところで決められていることが、どのように影響しているのか、なかなか実感することができません。そこで今回は、この問題に長く取り組んでこられた佐久間智子さんの講演を元に、日本への影響についてまとめました。

GATTからWTOへ-強い権限

第二次世界大戦後の1948年から50年近くにわたって貿易に関するルールを定め、実施してきたGATT(関税・貿易に関する一般協定)は1995年、法的拘束力を備えた国際機関WTO(世界貿易機関)として生まれ変わった。WTOは、GATT時代よりも幅広い分野を対象としており、複数の協定を束ねる複雑な制度である。また、紛争解決メカニズムが格段に強化されている。

ある加盟国が、他の加盟国のWTO協定違反により不利益を被ったと判断した場合、その国との協議を要求できる。それで決着できなければパネル(小委員会)の設置を要求することができ、専門家が双方の意見を聞いて報告を出す。どちらも上訴しなければ、WTOの一般理事会内に設置された紛争処理機関がこれを承認する。全加盟国が反対しない限り、つまり一カ国でも賛成していればその裁定が採択されるという方式を取っているため、紛争処理機関が裁定を出せば自動的に採択されることとなった。GATT時代には全加盟国の合意がなければ、その裁定は採択されなかった。こうして特定の措置がWTO違反とされた加盟国は、その措置自体を修正・撤回するか、貿易制裁を受け入れるか、賠償するか、という選択を迫られる。貿易制裁では、係争となった貿易品目とは違う分野に対する「たすきがけ制裁」が認められているため、勝訴した国は違反国に対して最も効果的な分野を選んで制裁を加えることができるようになった。市場にこれほど多大な影響を与える制裁措置を発動できる国際機関は他にない。

このように強い法的拘束力を背景に、貿易の対象となるあらゆる分野において、確実に効果的に自由化を進めることができるようになっている。

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日常生活をWTOが支配する

WTOの対象には、工業製品などだけでなく、農産物、サービス、投資、知的所有権なども含まれる。日常生活のほぼ全てがWTOに関係してくるのだ[※1]。

WTOにおけるサービス自由化には、公共サービスも含まれる。たとえば、日本の水道をフランス企業が受託できるようにするのが自由化である。学校や病院も対象とされている。こうした公共的なサービスへの民間企業の参入は新たな高利潤ビジネスと目されており、すでに途上国では国際通貨基金や世界銀行などから押し付けられた構造調整プログラム[※2]によって、民営化と外資参入が起きている。同様のことがWTOを通じて日本にも起ころうとしている。それによってどんな影響があるのだろうか。

たとえば、教育や医療など、利用者が質を求めるサービスにおいては特に、規制緩和によって価格があがることが予想される。このことは、払える者と払えない者が受けるサービスの格差が開いていく、または、後者がサービスそのものを受けられなくなる可能性があることを意味する。

日本では、80年代に国鉄が解体されてJR株式会社となると、地方の不採算路線は廃止された。郵政民営化が本格的に実現すれば、過疎地の郵便局は今後淘汰されるかもしれない。これらは一定水準のサービスを国民だれもが受けられるというユニバーサル・サービスが崩れていく過程と言える。こうした国内の規制緩和、民営化の議論と同じことが、今まさにWTOでも画策されている。実は国内の動きはWTOと連動しているのだ。日本はアメリカや大企業の圧力で動いているが、そのアメリカと大企業がWTOにも同じ圧力をかけているのだから、当然の成り行きである。公的サービスの分野では、公的資金を投入して整備が進んできたが、自由化されれば、これらが企業に利益をもたらすためのインフラになるのである。

国際ルールが決まれば、それが国内法を上から規定していくことになる。それは、「公共性」とは何かを国内で話し合い、政策に反映していく、という民主的なプロセスが、WTOに乗っ取られていくことを意味している。地方分権が叫ばれているが、国には自治体の政策をWTOルールに整合させる義務があるので、WTOがルールを決めていることについては、その政策決定を分権することはもはやできない。

WTOで投資ルールを作ろうとした際に、「WTOは世界の憲法をつくっている」と述べたWTO事務局長がいたが、これは本質を突いている。

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自由化は本当によいことなのか?

自由化の追求によって効率がよくなると言われるが、価格面だけで効率が追求されることになり、お金で量れない価値は無視されることになる。これによって、環境、労働、安全などが脅かされることは間違いない。

たとえば食品には多種類の化学物質が使われているが、消費者にはそれが環境に影響はないのか、本当に人体に安全なのかはよくわからない。未知の部分があったり、情報提供が不十分だったり、あるいは情報が多すぎたり複雑すぎたりしても、消費者は「賢い選択」ができない。そこで、行政などによる成分規制や表示義務などが必要となったのだが、WTOは環境基準や安全基準の上限まで定めてしまう。WTOには基準に関する協定があり、国際的に合意された基準より高い基準を維持したり新設したりする場合には、WTOに科学的根拠を示す義務が生じる。「安全である」ことが証明されていなくても、「安全ではない」ことが科学的に証明されない限り、そこに規制はできないということだ。自由化では、国内の事情や安全性よりも貿易上の都合が優先される。

現在問題になっているBSE(牛海綿状脳症)やホルモン剤使用の牛肉、遺伝子組み換え食品などについても、自由化という観点が優先されるために日本独自の価値や基準で規制することは許されない。食品の日付表示が「製造年月日」から「期限表示」に変わった(1995年)のも、EUや米国がこれを非関税障壁として攻撃したからだ。

また、自由化は国際分業による比較優位の考え方に基づく。米を売る国、自動車を売る国というように得意なものに特化すれば、みんなが豊かになるという考え方だ。しかし、国内において、農村と都市の格差、産業間の格差を観察すれば、そうはならないことがわかる。

消費者にとって “選択肢”が増えるともいわれている。確かに商品の種類は増えるだろうが、企業の価値観の範囲内で与えられるものの数が増えるにすぎない。しかも、よくみればどれも同じ多国籍企業の多角化ブランド商品だったりする。自由競争が進んで企業が淘汰されていけば「独占的自由市場」となり、数少ないグローバル企業の思う壺となる。結果的には、再び価格が上昇したり、選択肢が限られてしまったりする可能性が高い。どんな産業も、世界で3社程度しか残らないと言われているのだ。

日本では、穀物自給率が30%以下という状態の中で、米は関税化という名の自由化(1999年)の結果、生産者米価が下がり続けている。豆腐、しょうゆ、みそなどに使う大豆の自給率は3~5%、うどんの原料となる小麦も7%と低迷している。栽培面積やエネルギー代が一ケタも二ケタも違うアメリカやEUの農産品と自由化で勝負するということは、日本の農業をつぶすということとほとんど同じことなのだ。

そもそもは、自由競争や営利主義に任せていると貧富の格差が拡大し、貧しい人々からは必要なサービスもはく奪されるという「市場の失敗」に対する反省から、政府による保障の必要性が叫ばれた。ところが、政府が腐敗や非効率という形で失敗すると、再びなんでも市場に戻してしまえということなった。既得権益の温存や非効率は確かにある。しかし、民間の営利団体にすべてを丸投げすることでは現状は決してよくならない。このさじ加減までWTOが決めるというのである。

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WTOにどう対抗するか

では、WTOになど加盟しなければよいのだろうか? 二国間協定では、途上国は多額の資金援助や投資の約束などと引き換えに、強い立場の求める協定を結ばざるを得ない。先進国の言いなりになりやすいのである。

現在、WTO交渉の行き詰まり[※3]から、世界中で二国間での自由貿易協定(FTA)が進められている。日本政府もこのFTA交渉を進める政策に転じている。日本としては、強い国際競争力をもつ工業製品は自由化を進め、弱い農業分野は保護したい。しかし、3月にメキシコと基本合意に達したFTAでは、日本は自動車や鉄鋼の自由化と引き換えに、オレンジや豚肉の関税低減で大幅な譲歩をしているのが現実だ。

根本的な問題は、意思決定が複雑化し、その影響をかぶる現場から遠いところで行われることである。国際的な意思決定に参加できる人は限定されている。ところが、企業は国際交渉の裏でさまざまに実力を行使している。これに対抗する必要があるが、WTOは交渉の過程そのものにも問題を抱えており、途上国がそこから排除される仕組みさえある。NGOによる関与にも限界がある。

日本は、先進国であるために国際的な競争において「勝ち組」であるという意識があるのではないだろうか。そのため国内ではWTOに反対する人々は少数派だが、環境、資源、社会的公正さなどの点から長期的視野で考えれば、日本人のほとんどが「負け組」となり、自由化の負の影響にさらされることになるだろう。誤った「勝ち組」意識が途上国の人々との連帯を妨げている。国内でも、農業や公共サービスに関して、都市の新聞は「非効率」「既得権益」と評価しがちだ。みんながバラバラに分断されているから、こうした人々をつないでいく作業が必要だ。同時に、日本の地方や途上国がグローバル化、自由化の嵐の中で身を守る体制作りをしていく必要があるだろう。まずこうした事実を多くの人たちに広めていかなくてはならない。

(まとめ:田中祥一)
※この記事は、佐久間智子氏の講演の記録(2003年1月30日・東京)をもとに、参考文献などによる情報を加えてまとめたものです。

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※1 GATS(サービス貿易に関する一般協定、1994年)は、実務(弁護士・会計士・不動産・研究開発 等)、金融、建設、流通、観光、運輸、広告、電子商取引などから、いわゆる公共サービスと言われる環境(汚水処理・廃棄物処理・公衆衛生)、医療、介護、社会保障、郵便、文化、エネルギー、下水道まで非常に広範囲を対象とする。上水道を対象とするかどうかはまだ未決着。
※2 債務危機国に対して国際通貨基金、世界銀行が提示するプログラムのことで、これを受け入れないと新規融資が行われない。内容は輸出拡大、通過切り下げ、貿易や投資に関する規制撤廃、医療・教育福祉予算の削減、国営企業の民営化など。
※3 補助金や食料安全保障などの農業分野での利害対立、投資・サービス・知的所有権などの新しい交渉分野における先進国と途上国の利害対立などにより、昨年の閣僚交渉は決裂した。

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DEARニュース108号(2004年4月)特集より一部再編集のうえ掲載
※ 著作権は(特活)開発教育協会が保有しています。無断で転載や複製を行うことを禁じます。

■佐久間智子(さくまともこ)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)貿易と持続可能な開発プログラム・コーディネーター。1994年から01年まで、市民フォーラム2001で経済のグローバル化と持続可能な開発のかかわりなどについて情報提供と市民教育を行ってきた。著書に「非戦」(坂本龍一監修、共著、2002、幻冬舎)、「グローバル化と人間の安全保障」(勝俣誠編・共著、2001年、日経評論社)、「徹底討論WTO」(編・共著/市民フォーラム2001編)など。

NPO法人 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-3-2 三信ビル401  http://www.jacses.org/
■参考文献
『徹底討論WTO~ボストンシアトル、市民の課題』市民フォーラム2001編集発行、現代企画室発売、2001年
『由貿易はなぜ間違っているか~市民にとってのWTO』アジア太平洋資料センター編集発行、現代企画室発売、2003年
『自由貿易・WTO交渉の行方』(広沢広祐、「世界」岩波書店、2003年3月号)
『安ければそれでいいのか』(山下惣一編著、コモンズ、2001)
「世界の水問題とNGO」(拓殖大学ウェブサイト、長坂寿文)
■ウェブサイト
AMネット(日本/WTO問題の調査・研究・政策提言NGO・ウェブにはWTOに関するリンク集がある)
http://www1m.mesh.ne.jp/~apec-ngo/
IATP(食料・農業貿易政策研究所/アメリカのNGO)
http://www.iatp.org/iatp/
Public Citizen(アメリカの消費者組織)のGlobal Trade Watch
http://www.citizen.org/
Third World Network(マレーシア/途上国の視点から貿易、食料、環境、開発問題を扱うNGO)
http://www.twnside.org.sg/
Focus on the Global South(タイ/国際経済、国際機関を研究するNGO)
http://www.focusweb.org/

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