DEAR 開発教育協会

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メディアリテラシー <解説編>
自らの認識を問い直す-メディアリテラシー
野中章弘 アジアプレス・インターナショナル

解説編-自らの認識を問い直す  時事問題を教室へ!グローバル・エクスプレス

自分の偏見や思い込みは、なかなか気づきにくいものです。日常生活で得る情報のほとんどをマスメディアから得ていることを考えると、この思い込みもマスメディアの影響が大きいと言えるかもしれません。メディアの問題点を頭で理解していたとしても、ワークショップなどで実際にメディアを読み解いてみることによって、メディアの問題点だけでなく、自身の持っている様々な思い込みに気づかされます。筆者の体験を振り返るとともに、独立系メディア会社アジアプレス・インターナショナル代表の野中章弘氏に、マスメディアの報道がどのように作られるのか、そして何に注意して報道を読み解けばよいのか、伺いました。
(インタビュー・報告:西あい・甲斐和歌子)

思い込みに気づく-メディアリテラシーのワークショップで

昨年の夏に、DEARが主催する「グローバル・エクスプレス」という時事問題のワークショップに参加し、新聞記事を読み解くワークを行いました。そこでの気づきは私にはたいへんな衝撃でした。

「新聞記事を読んで記事の情報源はどこかを探る」というアクティビティでのこと。私のいたグループには、「貧困対策 民衆置き去り」というタイトルの、比較的長い記事が配られました。記事とともに、マラウイのお母さんたちが子どもをひざに抱き、家の中に座って何かを食べさせている写真が掲載され、その説明は「保健所で母親たちが子どもたちに、大豆やビタミン剤を飲ませている」となっていました。

ざっと読んだ所、この記事はマラウイの人々が貧困に苦しんでいる事実を伝え、その原因を考える内容と受け取りました。しかしその後、記事の情報源を追いながら読んでいくと、「IMFの○○代表は…」とか、「WFPは…」「ナイロビ大学の△△教授は…」という文章が並んでいます。タイトルにあるマラウイの「民衆」が情報源となっていたのは、たった3行引用されていた、ある村の男性の話だけでした。

再度注意して記事を読むと、マラウイの「民衆」の貧困という現実について書かれている部分は実はほとんどなくて、国際機関や政治家、国家がどうしたという内容が大半でした。結局マラウイの「民衆」の実際はどうなのか、この記事からだけでは判断できないはずなのです。ところが私は、その記事だけでマラウイの民衆が「貧困で苦しんでいる」という事実を知ったと思い込んでしまったのです。これは大変な驚きでした。

私の中に「アフリカの人々=貧困=苦しい」という思い込みがあったために、簡単に記事に納得してしまったのでしょう。民衆の声を聞かずに民衆について語る報道のあり方に問題があるとともに、私の認識と、それを疑うことがない、ということにも問題があったのだと思います。

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メディアを知る

一つの真実、複数の真実

ある事象にニュース価値があるかどうかという判断は、記者によってなされます。記者がその土地の歴史や社会的状況をよく知らなかった場合には、どんなに重要な事象でも報道自体がされないことになります。また、海外で取材活動をする特派員は、一人で何ヶ国も同時に担当している上、3年ほどで異動があることも多く、どうしても情報源が限られ表面的な記事しか書けないという現状があるそうです。

また、伝えられる情報は、事実の中の一側面に過ぎず、さらに「事実はひとつだが真実は複数ある」と野中さんはいいます。例えば、アメリカのイラク攻撃に関する報道では、記者の事象を見る立場やその時いた場所、周りの人々によって、その事象に対する理解は大幅に異なってきます。アメリカのCNNの記者は、「アメリカ人としてアメリカ側に感情移入するのは仕方がない」と述べたそうです。日本のマスメディアの伝える情報はアメリカをはじめとする攻撃に賛成の立場からの報道が多く、それはアメリカ側の価値観からみた「真実」を見ている、ということが言えるでしょう。攻撃を受ける側であるイラクの人々の視点からの報道が、日本でどれだけあったでしょうか。

報道は見る側の価値観を反映する

取材された情報は、報道のために必ず編集されます。分刻みで視聴率が計算され報道産業の収入に直結しますから、視聴率の高い事柄に関する報道がどうしても多くなります。テレビの北朝鮮報道では、「喜び組」の報道がとても多くされました。それは、「喜び組」の映像が流れると視聴率がぐんと伸び、「拉致被害者のインタビュー」では視聴率がぐんと下がるからだといいます。もちろん、広告主の産業界の意向も反映されますが、こうして、他にどんなに大事なことがあったとしても、結局は見る側が受け入れ易い報道がなされるのです。

「ある国や地域のマスメディアは、見る側のレベルに見合ったものだ」と野中さんはいいます。ジェンダーや民族、宗教などについての偏見やある価値観をマスメディアが提示しているなら、それらは情報の受け手である私たちの社会の「多数派」の価値観を反映しているのです。質の高いメディアを育てるのは、報道の受け手である視聴者の責任であるとも言えるでしょう。

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「真実」を読み取る

少数者の声を聞く

野中氏がアジアプレス・インターナショナルを創設したのは、アジアで起きていることについてのマスメディアの報道があまりに断片的、恣意的であるためだったといいます。マスメディアが伝えない視点からの報道、つまり現在の私たちの社会では主流でない視点からの報道という他の取組みも行われています。

例えば「Voice」は、子どもたちの声を社会に届けるために9歳から18歳の子どもたちによって運営されている、インターネット上のメディアです。そのウェブサイトを見ると、「動物虐待」「お年寄りは図書館」「在日朝鮮人の危機」などのテーマで当事者にインタビューを行ったり、取材旅行にいったりして記事をまとめ発信している様子が掲載されています。編集も子どもたちが行い、子どもの視点での情報発信を続けています。

世界の先住民のジャーナリストたちのネットワークによるウェブサイト「Indigenous Media」は、先住民たちの声を広く届け、それぞれが直面する差別などの問題に団結して取組むことを目指しています。メンバーのジャーナリストが取材した記事などの、先住民や少数民族の視点からの報道が掲載されています。最近の記事を見ると、ボリビアやペルー、チベットの先住民に関するもの、アメリカ先住民がアメリカのイラク占領(invasion)に抗議の声明を出したことなどが報道されています。イラクに関する報道も多く、それらはイラクの住民や犠牲になった報道関係者に焦点をあてたものです。

各人の価値観が「真実」をつくる

VoiceやIndigenous Mediaの取組みは、マスメディアからは外されがちな視点からの情報を提供してくれます。しかし様々なメディアが報道する情報は、どれも現実そのものではなくて、それぞれのメディア独自の視点が反映された「恣意的な」情報であることを意識しておくことが必要です。アメリカのイラク「戦争」報道で言えば、米英軍がバグダッド入りした事実を「イラク解放」とするのか「イラク侵攻」とするのか、それとも、その出来事よりも同じ日に「誤爆」の被害を受けた市民たちのことを大きく報道するのか。どの情報を受けるかによって、受け手はこの「バグダッド入り」に関して全く違った印象を持つでしょう。

野中さんは「恣意的な情報源がたくさんあれば事実が見えてくる、その事実から事象全体を見ることが可能」だと言います。意識して様々な情報源から情報を得ることが重要です。  しかし無数にある情報源から、最終的にどのような「真実」を読み取るのかを判断するのは、私たち自身です。「最終的には各人の思想の問題だ」と野中さんはいいます。つまり現在の社会をどう見ているのか、どういう社会を作りたいのか、どのような世界で生きたいのかという、私たちの価値観の問題なのです。

価値観を形成する際に非常に大きな影響を及ぼしているのがメディアであり、メディアからの情報を最終的に判断するのが各人の価値観であるとすれば、メディアを批判的に読み解く力をつけることと、自身の認識を批判的に問い直す姿勢を持つことは、メディアリテラシーを実践するうえでどちらも欠かせない点でしょう。

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DEARニュース103号(2003年6月)特集より一部再編集のうえ掲載
※ 著作権は(特活)開発教育協会が保有しています。無断で転載や複製を行うことを禁じます。

■アジアプレス・インターナショナル
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