中期方針・SDGs基本方針(2022-2026年度)
2022年度からの5か年は以下の2つの重点方針と「SDGsに対する基本方針」に基づいて事業をおこないます。
1. 前中期方針により達成したことと残された課題
2019年度から2021年度の中期方針では、次の5つの重点方針を掲げ、関連事業に取り組んできました。
- 開発教育の実践者を支援し、かつ増やします
- SDGsを深く理解し、持続可能な社会を実現するための学習を推進します
- 地域の開発課題に向きあい、持続可能な地域づくりのための教育を支援します
- 教育政策に関する提言を行います
- 組織基盤の強化をはかります
達成したこと
この間、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響により各種事業をオンラインで実施しましたが、全国各地や海外からの参加者とともに、実行委員や発表者などの立場でd-lab(全国研究集会)などの事業にかかわる実践者が増えました。
SDGsについては、人権や社会的公正の視点から考える学習ツールを作成し、広く活用されているとともに、研究会の議論により開発教育ファシリテーション概念の整理や教育観の転換をめざすSDGs学習を提案する基盤ができています。ネットワークを通して、SDG4(教育目標)に関する意識喚起や政策提言活動の強化、さらには成人教育に関する政策対話の場づくりをすすめています。地域ネットワーク会議の開催により、全国各地の開発教育の取り組みと連携協働する基盤をつくっています。
残された課題
一方、残された課題もあります。教材制作やカリキュラム開発だけでは教育は変えられないという意識をもとに、教育観の転換を伴う議論を強化していく必要があります。そのために、公正で持続可能な社会や開発観、すなわち、資源の収奪や競争を強化し格差を拡大する社会ではなく、資源の公正な分配と対話を通して支え合う社会であることについて共有し、議論していくことが必要であることが確認されました。また、財政基盤安定化のために協力者を拡大していくことの重要性が共有されました。
2. 現状認識と問題意識
経済のグローバリゼーションが急速に進展する中、経済格差や所得格差は世界規模で拡大の一途をたどっており、気候危機もますます喫緊かつ深刻になっています。また、世界各地で武力衝突や地域紛争が繰り返されています。
そうした中で2020年に始まったCOVID-19によるパンデミックは、諸外国のみならず、日本の政治・経済・社会のしくみの脆弱さや不公正さを改めて浮き彫りにしています。そこで明らかに見えてきたことは、日本国内の貧困や格差の問題であり、人権侵害やジェンダー差別などの問題です。 ここでわたしたちが確認しておきたいことは、次の2点です。
①日本自体が「困窮化」していること
世界最高の医療水準にあると言われ、国民皆保険の制度が整いながら、コロナ禍の中でなぜ適切な医療を受けられずに、命を落とさなければならなかったのでしょうか。世界第3位の経済大国でありながら、なぜ職を失い、所持金も底をつきながら、誰にも助けを求めることができないのでしょうか。OECD加盟国の中で、日本の最低賃金の水準は最下位グループにあります。ジェンダーギャップや社会の寛容度に関する国際統計をみれば、日本は世界の100位以内にも遠く及ばないでいます。
開発教育は、その歴史的な経緯から、「貧困」は“途上国”の問題であり、「格差」は「北」の“先進国”と「南」の“途上国”との間の「南北問題」という認識から出発しています。しかし、現在のグローバリゼーション下にあっては、貧困・格差の問題に南北の国境がないことは明らかです。従来の認識や枠組みを転換して、グローバルな視点とローカルな視点から貧困・格差の問題に向きあうことがなお一層のこと必要となっています。
②教育観が変わる必要があること
開発教育では、教師や講師中心の「知識伝達型」とは異なる、「参加体験型」の学習を重視し試行錯誤してきました。「参加体験型」の教育方法は、学校教育や社会教育でも推進されてきた一方で、その教育方法を用いてなお、学習者中心というよりは、教育者主導の授業やプログラムとして形式化されている場合が多いのではないでしょうか。
また、教育観の形成に影響力のある学校教育には、大学を頂点としたヒエラルキーに埋没し、競争や効率を優先しようとする画一的で同調的な教育制度や、自己決定や個性尊重を軽視する学校文化が依然として存在します。その社会的背景にはグローバリゼーションによる「人材」要求もあります。しかし、教育とは包括的な実践です。ESDの推進には、授業やプログラムにおける教育方法の転換だけではなく、社会全体の根本的な教育観の転換が必要です。
この大きな教育問題に向けて、私たちは自らが提起する「参加体験型」教育を、学習者の観点から問い直し、共生や協働に向けた多様性に富む、民主的で市民に開かれた教育を構想していきたいと考えます。
3. 中期重点方針
上記の問題意識を持ち、2022年度から開始する5か年の中期重点方針として以下の2つを掲げ、各種事業の中で取り組んでいきます。なお、これらの方針は、2024年度を中間年として、評価を行います。
方針1.開発課題をわたしたちの課題として捉え考える市民性・公共性の追求
格差と分断がすすむこの複雑で不透明なSDGs時代やグローバル社会を読み解き、国内外の「開発」課題の達成に向けて教育や学習が役割を果たしていく上で重要なキーワードとなる「市民性」や「公共性」に関する議論を会員や実践者と広く共有していきます。すなわち、「わたしたちの世界を変革する」上で、また「誰一人取り残さない」ためには、多様で複雑な地球社会や地域社会の中で、何がわたしたちに共通の利害であるか、そして、その利害の対立を解消する公正な議論を組み立ていくことが大切です。また、そのプロセスに誰がどのように参加していくのかを明らかにするとともに、実際に参加を可能とする機会を保障していくことは、「開発」課題を達成していく上でも不可欠です。
<関連する重点事業>
1.開発課題(ジェンダー・貧困など)と開発教育に関する研究会の実施
4.教育政策に関する調査・ネットワークづくり
方針2.教育者中心から学習者中心の教育への教育観の転換に向かう
多様な「開発」課題を知識や情報として詰め込むように教えるのではなく、その課題の解決を誘導するのでもなく、子ども若者を含むわたしたち自身が主体的な学習者であり続けられるように、従来の教育者中心の教育観を学習者中心に転換する議論をすすめます。そのために、開発教育が重視してきた「参加体験型」の学習・教育方法の普及推進のみならず、わたしたちの中に無自覚に浸透している、管理・伝達・誘導型の教育観を問い直し、子ども若者と大人の主体的な学習のあり方と、それを支える教育や学校のあり方や役割について、議論を促進していきます。
<関連する重点事業>
2.成人教育・社会教育としての開発教育の推進
3.開発教育ファシリテーション(対話)の再考・議論の促進
なお、中期重点事業5の組織基盤強化に関しては、双方の重点方針と関連付けて実施していきます。
SDGsに対する基本方針
2015年9月の国連総会で、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(「2030アジェンダ」)」が全会一致で採択されました。「2030アジェンダ」は、「誰一人取り残さない」という理念を掲げ、「持続可能な開発目標(SDGs)」として17の目標と169のターゲットを掲げています。
DEARは、「2030アジェンダ」の理念に賛同し、開発教育を通して持続可能な社会の実現のための教育・学習をすすめていくにあたり、SDGsに対する認識・基本方針を明確にし、開発教育を推進している全国の方々と、地域や学校などにおけるSDGsへの取り組みを共有し、協議していきたいと考えています。そのための具体的な方針および事業を、「DEAR・2022-2026中期重点方針・事業」の中に位置づけ、実施していきます。
1.持続可能な開発と開発教育
DEARでは、2005年に「国連・持続可能な開発のための教育の10年開始にあたって-DEARのESD(持続可能な開発のための教育)に対する認識・基本姿勢」を提案しました。DEARは、1990年代の一連の国連・国際会議の議論を取り入れる形で、1997年に開発教育定義再考の議論を経て現在の定義に変更しました。その際に「開発をめぐる問題と環境破壊などの地球的諸課題との密接な関連を理解すること」と、「持続可能な開発」の視点を加えています。
DEARの考える「持続可能な開発」とは、DEARが1982年の設立以来、模索してきた1980年代の「内発的発展」に象徴され、基本的ニーズの充足、地域文化の尊重、環境の保全、住民の参加などを基礎とする「オルタナティブな開発」、そして、1990年代の「社会開発」や「人間開発」や「参加型開発」の考え方と深く関連しており、従来の経済成長を最優先した経済開発を批判的に検討し、政治的、社会的、そして生態的な公正の観点から持続可能性を追求するものです。
「持続可能な開発」の概念は、1987年のブルントラント委員会の報告書『われら共有の未来(Our Common Future)」において広く提起された考え方であり、「将来世代のニーズを満たす能力を損なわないような形で、現在世代のニーズも満足させること」(世代間の公正)と位置づけるとともに、現在の世界における南北間の資源・エネルギー利用の深刻な格差にも言及し、南北問題の解決による「世代内の公正」の確保が持続可能な開発にとって欠かせないことを指摘しています。
2.持続可能な開発目標(SDGs)と開発教育
SDGsは、国連で2000年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継と位置付けられている一方で、途上国の課題解決を軸としたMDGsに対して、人類共通の課題として持続可能な開発を位置付けているところが大きく異なります。2012年「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」では、地球環境問題(環境保全)と貧困問題の解消を開発目標と統合し、包括的な目標とすることが提唱され、SDGsが独立した課題の集合体であると同時に、相互に関連し合っている包括的な目標であることが共通認識となっています。
一方で、SDGsがすべての課題を網羅したものではないことも指摘されています。たとえば、ジェンダーや人権の視点はSDGs全体に通底する理念や課題とはなっていますが、女性や少女の課題が強調される一方で、男性優位な社会に対する指摘や課題は見られません。さらに、私たちの将来を大きく左右する原子力発電や核兵器に関する記述も見られません。
SDGsを推進する“エンジン”とされている「持続可能な開発のための教育(ESD)」は、目標4.7(※)に掲げられているにとどまりますが、教育は、一目標にとどまらず、SDGsのすべての目標達成の推進力と位置づけることが必要です。こうした観点から、2019年に国連総会で「持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が採択されたことは、ESDの目的が明確になったという点で評価できるでしょう。しかし、逆にESDの目的がSDGs達成という国際政策の実現に限定されてしまったとも言えます。
また、「2030アジェンダ」の理念に基づけば、教育そのもののあり方も問い直されるべきです。すべての子どもたちが学校へ通うことができるようになるという課題は依然として存在しますが、ESDは、従来の学校教育の範疇を超え、持続可能性という視点、すなわち経済、環境、社会、意思決定(政治)の四方向からこれまでの社会のあり方を問い直す教育が重要になります。 開発教育は、これまでの社会が経済成長に価値の軸を置いてきたことや意思決定・政治が一部の人によって行われていることへの問題提起など、社会変革に向けた視点を提示し、多様性や包摂性が尊重される平和で公正な社会の創造に向けて取り組みを行います。
※ターゲット4.7は「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和及び非暴力文化の推進、グローバル・シティズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、すべての学習者が持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする」と記載されています。
我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ 外務省仮訳
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
3.SDG目標4および4.7に対するDEARのこれまでの取り組み
SDG4「教育目標」は「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことをめざしています。DEARはSDG4やターゲット4.7の策定過程にも積極的に参加してきました。具体的には、2014年11月に名古屋で開催された「ESDユネスコ世界会議」に参加し、「ESD政策への市民参加に関する提言」を提案し、賛同者を募ったほか、2015年5月に韓国・仁川で開催された「ユネスコ世界教育フォーラム」に参加し、SDG4の草案となる「Education2030」に対しても意見を出してきました。
日本の「ESD国内実施計画」の諮問機関として設置された「ESD円卓会議」においては、上條直美前代表理事が委員として参加し、計画策定に際する提案や、グローバルアクションプログラム(GAP)後継プログラムや「第2期ESD国内実施計画」に関する意見提出をしました。また、日本政府の「SDGs実施指針」や「SDGsアクションプラン」について、SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)のメンバーとして、SDG4.7をすべての教育において主流化していくことや、国内の教育課題と政策について提案しています。そのほか、教育協力NGOネットワーク(JNNE)のメンバーとして、「SDG4教育キャンペーン」のプログラム作成と実施に協力し、SDG4の達成に向けたキャンペーンを推進しています。
また、SDG4は子どもの教育のためだけのものではありません。大人が学ばなければ社会は変わらない、そして、大人の学びを置き去りにしない、という観点から、12年に一度開催される第7回ユネスコ国際成人教育会議(2022、モロッコ)への準備プロセスにコミットしました。文部科学省へのアドボカシーや懇談を重ね、アジア南太平洋基礎・成人教育協会(ASPBAE)とも連携し、日本政府代表団の一員としても第7回会議に参加します。
ほかには、学習指導要領や教育政策に関するパブリックコメントの呼びかけを行ったほか、SDG4.7についての対話や情報共有の場を提案し、教育政策に対して市民の声が反映されるような環境づくりをすすめています。そして、持続可能な開発のためには、根本的な私たちの教育観の転換が求められる認識のもと、2022-26年度中期重点方針では、教育観の転換に向けた議論の推進を掲げています。
4.2022-2026中期計画におけるSDGs関連事業
SDGsへの取り組みは、政府、自治体、企業、学校など各方面において模索されています。
2016年には、総理大臣を本部長とする「SDGs推進本部」が設置され、国内実施と国際協力の両面からの取り組みの体制として、「SDGs推進円卓会議」が設置され、「SDGs実施方針」や「SDGsアクションプラン」などが策定されました。その中で、「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」の選定などで各自治体での取り組みが広げられてきています。
産業界の動きとしては、2017年に日本経団連の「企業行動憲章」が改訂され、SDGsが中核に据えられました。その中ではIoTやAI、ロボットなどの革新技術を活用して経済成長と社会的課題の解決を両立していくことがうたわれるなど、環境整備が進められています。
学校教育においては、小中学校新学習指導要領(平成29年3月公示)の前文および第一章総則で、児童・生徒が「持続可能な社会の創り手となることが期待される」と明記されています。 こうした動きを受けて、開発教育協会では、全国の開発教育の関係者が教育実践の中でSDGsに取り組みやすい環境を作るために、「2022-2026中期重点事業」の1、2および4においてSDGsの取り組み方針、目標、事業を掲げることを提案しています。
2022-2026中期重点方針・事業
1.開発課題(ジェンダー・貧困など)と開発教育に関する研究会の実施
2.成人教育・社会教育としての開発教育の推進
4.教育政策に関する調査・ネットワークづくり
1.開発課題(ジェンダー・貧困など)と開発教育に関する研究会の実施
「開発」の意味や望ましいあり方を問い、多様で複雑な「開発」課題を認識し、それらの歴史的構造的な理解を深める。さらに、課題達成に向けた行動を促していくために、「市民性」や「公共性」に関する議論を広く提案していく。
<事業>
- 「SDGsと開発教育研究会」の実施、講座の開催、冊子の作成・普及
- 「ジェンダーと開発教育研究会」の実施、教材の分析、教材の作成・普及
2.成人教育・社会教育としての開発教育の推進
成人教育・社会教育の観点を持った開発教育活動の実践のあり方を広く共有する。具体的には、大人が学び続けられる環境づくりや教育保障と、人々が市民的な力を得ることで社会が変わるような教育の議論・提案をし、地域における実践共有や、政策提案をするネットワークを構築する。
<事業>
- 成人学習・教育(ALE)プロジェクトの実施、プラットフォーム/ネットワーク(人・情報)の構築、実践の収集・共有・政策提言・提案
- 地域ネットワーク会議の開催、地域ネットワーク構築
4.教育政策に関する調査・ネットワークづくり
開発教育実践者や市民組織と協力して教育政策に関する調査や分析、教育実践の共有や方略策定を行い、国内の教育政策への提案を行う。全国の開発教育実践者が開発教育やESDを実施しやすい環境をつくるために、政府や自治体行政との対話の場を広げる。
<事業>
- 政策提言活動の実施、教育政策の現状調査、政府との対話のへの参加
- 他団体との連携・ネットワーク構築、ネットワーク団体(SDGsジャパンおよびJNNEなど)との協働、国内外の会議への参加・提言
これらの事業を通して、開発教育協会および全国の開発教育実践者が、アジェンダ2030が掲げる「誰一人取り残さない」社会の実現、公正な社会の実現に向けて共に取り組むことを目指します。
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SDGs(持続可能な開発目標)に対する基本方針(2019年4月)